令和8年度 ITパスポート試験 公開問題 問84 解説 推論システム
ある推論システムは,演繹推論,帰納推論,仮説形成などの推論が実行できる。こ の推論システムへの入力と得られた出力に関する記述のうち,演繹推論を実行した例 として,適切なものはどれか。
- ア “HDDとSSDは記憶装置である”と入力した後に,“HDDの台数を増やすと記憶容 量が増える”と入力した。出力は,“SSDの台数を増やすと記憶容量が増える”と なった。
- イ “HDDは台数を増やすと記憶容量が増える”と入力した後に,“記憶装置は台数 を増やすと記憶容量が増える”と入力した。出力は,“HDDは記憶装置である”と なった。
- ウ “記憶装置であるHDDは記憶容量をもつ”と入力し,同時に“記憶装置である SSDは記憶容量をもつ”と入力した。出力は,“全ての記憶装置は記憶容量をも つ”となった。
- エ “全ての記憶装置は記憶容量をもつ”と入力した後に,“HDDは記憶装置であ る”と入力した。出力は,“HDDは記憶容量をもつ”となった。 ✓ 正答
解説
この問題は、論理学における推論の型の違いを見極めることで解くことができます。演繹(えんえき)推論とは、「一般的なルール」を「個別の対象」に当てはめて、確実に言える結論を導き出す手法です。今回の選択肢の中で、このプロセスを正確に行っているのはエです。
演繹推論の仕組み
演繹推論は、よく「三段論法」という形で説明されます。以下の三段階で構成されます。
- 大前提(一般的な法則):全てのAはBである
- 小前提(個別の事実):CはAである
- 結論:ゆえに、CはBである
選択肢エを見てみましょう。「全ての記憶装置は記憶容量をもつ(大前提)」というルールに対し、「HDDは記憶装置である(小前提)」という事実を当てはめています。その結果、「HDDは記憶容量をもつ」という結論が導かれています。これは演繹推論の構造そのものです。
他の選択肢が演繹ではない理由
選択肢ア、イ、ウは、演繹推論とは異なる推論形式をとっています。
選択肢アは「アナロジー(類推)」に近い推論です。HDDとSSDの類似性から推測を行っていますが、ルールから必然的に結論が導かれているわけではありません。
選択肢イは「アブダクション(仮説形成)」です。「台数を増やすと容量が増える」という結果から、その原因や性質を推測していますが、この推論には論理的な飛躍が含まれています。
選択肢ウは「帰納推論」です。「HDDは容量をもつ」「SSDも容量をもつ」という複数の個別データから、「全ての記憶装置は容量をもつはずだ」という一般的な法則を導き出そうとしています。帰納推論は個別の事象からルールを一般化する手法ですが、全てのケースに当てはまるという保証(確実性)はないという特徴があります。
論理的思考がITの現場で役立つ場面
ITシステムの開発や運用において、推論の知識は非常に重要です。例えば、トラブルシューティングの場面を考えてみましょう。
「全てのサーバーでメモリ不足時に再起動がかかるというルールがある(大前提)」、「このサーバーで再起動が起きた(小前提)」という情報から、「メモリ不足が原因である可能性がある」という仮説を立てるのは、論理的な思考プロセスです。
また、AI(人工知能)の分野でも、この推論手法は区別されています。ルールベースのシステムでは演繹推論が使われ、機械学習ではデータからパターンを見つける帰納推論が使われます。システムがどのような論理で答えを出しているのか、あるいはデータから何を学ぼうとしているのかを理解しておくことは、AI技術を扱う現代のITエンジニアにとって必須の教養といえます。