第二級陸上特殊無線技士 試験問題例題(無線工学 No.2) 問23 解説 パルスレーダー
パルスレーダーにおいて、最小探知距離の機能を向上させる方法として、適切なのはどれか。次のうちから選べ。
- 1. パルス幅を狭くする。 ✓ 正答
- 2. アンテナの垂直面内のビーム幅を狭くする。
- 3. アンテナの水平面内のビーム幅を広くする。
- 4. アンテナの高さを高くする。
解説
パルスレーダーにおける最小探知距離は、送信する電波の「パルス幅」によって決定されます。電波を送信している間は受信機が動作できないため、パルス幅を狭く(短く)することで、より近距離からの反射波を受信できるようになり、最小探知距離の性能が向上します。したがって、選択肢1が正解です。
送信と受信を同時に行えないパルスレーダーの仕組み
パルスレーダーは、強力な電波(パルス波)を一瞬だけ送信し、それが目標物に反射して戻ってくるまでの時間を測定することで距離を測るシステムです。
ここで重要なのは、レーダーが電波を送信している間は、自らの強力な電波で受信機が壊れてしまわないように、受信用の回路を保護するか遮断しているという点です。つまり、電波を送信している時間(パルス幅)の間は、目の前に目標物があったとしても、その反射波を受け取ることができません。これをレーダーの「不感地帯」や「デッドゾーン」と呼びます。
送信が終わってから初めて受信状態に切り替わるため、送信するパルス幅が広ければ広いほど、受信を開始するまでの時間が遅くなり、近くの目標物を見落とすことになります。したがって、より近い場所(最小探知距離)にあるものを探知するためには、パルス幅をできるだけ狭くして、送信時間を短く抑える必要があります。
数式と選択肢から考えるアプローチ
最小探知距離を理論的に考えてみましょう。
電波の速度を (秒速約 メートル)、送信するパルスの幅(時間)を 秒とします。
送信を開始してから送信が完了するまでの時間 の間に、電波は往復で の距離を進むことができます。このため、レーダーが受信可能になった時点で、最も近くから戻ってくることができる電波の限界距離(最小探知距離 )は次の式で表されます。
この式を見ると、最小探知距離 を小さく(=性能を向上)するためには、パルス幅 を小さくする、すなわち「パルス幅を狭くする」ことが直接的な解決策であることが一目で理解できます。
他の選択肢についても確認しておきます。
選択肢2および3の「ビーム幅」は、アンテナから放射される電波の広がりの角度を指します。ビーム幅を狭くすることは「方位分解能」(隣り合う2つの目標物を識別する能力)の向上につながりますが、距離の測定、特に最小探知距離には影響を与えません。
選択肢4の「アンテナの高さを高くする」ことは、地球の丸みによって隠れてしまう遠方の目標物を捉える「最大探知距離」の向上には役立ちますが、自船の足元に近い至近距離の目標物を探知する能力には寄与しません。
よって、正解は選択肢1のみとなります。
実務やシステム運用におけるレーダーの設計思想
この「パルス幅と探知距離の関係」は、実際の無線機器の運用において非常に重要なトレードオフ(二律背反)の関係にあります。
パルス幅を狭くすると、最小探知距離が向上し、近距離の目標物を高い精度で識別できるようになります。しかし、送信する電波全体のエネルギーが小さくなってしまうため、遠くまで電波が届かなくなり、最大探知距離の性能は低下してしまいます。
逆に、パルス幅を広くすると、より遠くの目標物を探知できるようになりますが、近距離の目標物が見えなくなる盲目領域が広がってしまいます。
実際の船舶用レーダーなどの現場では、この特性を考慮して、港湾内などの狭い水路を航行するときはパルス幅を狭く(ショートパルス)設定し、障害物のない外洋を航行するときはパルス幅を広く(ロングパルス)設定するというように、目的に応じて設定を切り替えて運用しています。
試験でこの問題が出題されるのは、単に公式を暗記させるためではなく、無線従事者として状況に応じた適切な機器の操作や、システム特性の理解を求めているからです。