正答は (3) の「揚水所要時間 10 時間、変換効率 72.0%」です。これは、揚水運転に必要なエネルギー量と、発電運転で得られるエネルギー量を比較し、揚水効率を考慮することで算出できます。
揚水発電所のエネルギー計算の基本
揚水発電所では、電力需要の少ない夜間などに、安価な電力を用いて水を貯水池に汲み上げ(揚水)、電力需要の多い昼間などに、その水を放流して発電します。この過程におけるエネルギーの計算には、以下の概念が重要となります。
- 有効落差 (H0): 上部貯水池と下部貯水池の水面との高低差で、発電に利用できるエネルギーのポテンシャルを表します。
- 揚水量 (Qp): 揚水運転時に汲み上げる水の体積流量です。
- 揚水所要時間 (Tp): 揚水運転に要する時間です。
- 発電水量 (Qg): 発電運転時に放流する水の体積流量です。
- 発電運転時間 (Tg): 発電運転に要する時間です。
- 水の密度 (ρ): 水の質量あたりの体積です。
- 重力加速度 (g): 物体に働く重力の加速度です。
- 発電機・水車の効率 (ηgηt): 発電運転時に、水の持つ位置エネルギーが電気エネルギーに変換される際の効率です。
- ポンプ・電動機の効率 (ηmηp): 揚水運転時に、電気エネルギーが水の持つ位置エネルギーに変換される際の効率です。
- 変換効率: 揚水に用いた電力量を発電電力量に変換する際の総合的な効率を指し、ここでは発電機・水車の効率とポンプ・電動機の効率、およびその他損失(揚水損失水頭、発電損失水頭)を総合的に考慮した値となります。
これらの要素から、揚水に必要なエネルギーと発電によって得られるエネルギーを計算することができます。
揚水所要時間と変換効率の算出
まず、揚水運転に必要なエネルギー量(仕事量)を計算します。
揚水運転では、揚水量を Qp [m³/s]、揚水所要時間を Tp [s]、有効落差を H0 [m]、水の密度を ρ [kg/m³]、重力加速度を g [m/s²]とすると、揚水される水の質量は ρ×Qp×Tp [kg] となります。
この質量の水が H0 [m] の高さまで持ち上げられるのに必要な仕事量は、
Wpump_potential=(ρ×Qp×Tp)×g×H0 [J]
となります。
しかし、揚水運転にはポンプと電動機が必要であり、これらの効率 (ηmηp=85%) を考慮する必要があります。また、揚水損失水頭も考慮が必要です。問題文では揚水損失水頭は H0 の 3% と与えられており、これは揚水に必要なエネルギーを増加させる要因となります。つまり、水面を H0 だけ持ち上げるのに加え、損失分だけ余計にエネルギーが必要になります。
ここで、揚水損失水頭 Hloss_p は H0×0.03 となります。
したがって、揚水に必要な全落差は H0+Hloss_p=H0×(1+0.03)=1.03H0 となります。
揚水運転に消費される電力量(電気エネルギー)は、この位置エネルギーの増加と、ポンプ・電動機の効率を考慮して、
Epump_electric=ηmηp(ρ×Qp×Tp)×g×(1.03H0) [J]
となります。
次に、発電運転によって得られるエネルギー量を計算します。
発電運転では、発電水量 Qg [m³/s]、発電運転時間 Tg [s]、有効落差 H0 [m]、水の密度 ρ [kg/m³]、重力加速度 g [m/s²]とすると、放流される水の質量は ρ×Qg×Tg [kg] です。
この水の持つ位置エネルギーは、
Wgenerator_potential=(ρ×Qg×Tg)×g×H0 [J]
となります。
発電機・水車の効率 (ηgηt=90%) を考慮し、さらに発電損失水頭(H0 の 3%)を差し引いた有効落差で発電されるため、発電される電力量は、
Egenerator_electric=(ρ×Qg×Tg)×g×(H0−Hloss_g)×(ηgηt) [J]
ここで、発電損失水頭 Hloss_g は H0×0.03 です。
したがって、発電される電力量は
Egenerator_electric=(ρ×Qg×Tg)×g×(H0×(1−0.03))×(ηgηt) [J]
Egenerator_electric=(ρ×Qg×Tg)×g×(0.97H0)×(ηgηt) [J]
となります。
問題文より、発電運転時間は Tg=8 時間です。これを秒に換算すると、Tg=8×3600 [s] となります。
また、水の密度 ρ=1000 kg/m³、重力加速度 g=9.8 m/s²、総落差 H0=450 m、揚水量 Qp=40 m³/s、発電水量 Qg=50 m³/s です。
揚水運転と発電運転でやり取りされるエネルギー量は、総貯水容量から決まります。揚水運転で汲み上げる水の総量は Qp×Tp であり、発電運転で放流される水の総量は Qg×Tg です。揚水発電所では、揚水運転と発電運転で貯水池の水位を一定に保つわけではなく、一定の揚水運転時間と発電運転時間内で、揚水した水をすべて発電に利用すると考えます。
この問題では、「発電運転 8 時間を行う場合」とあります。この8時間の発電運転で放流される水の総量は Qg×Tg=50m3/s×(8×3600s) です。
この放流される水量が、揚水運転によって汲み上げられた水と等しくなると考えるのが一般的です。したがって、揚水運転で汲み上げる水の総量も 50×8×3600m3 となります。
揚水所要時間を Tp [時間]とすると、揚水運転で汲み上げる水の総量は Qp×Tp×3600 [m³] です。
よって、Qp×Tp×3600=Qg×Tg という関係が成り立ちます。
40m3/s×Tp×3600s=50m3/s×(8×3600s)
40×Tp=50×8
Tp=4050×8=40400=10 [時間]
したがって、揚水所要時間は 10 時間となります。
次に、変換効率を求めます。
変換効率は、揚水に消費した電力量を発電電力量で割った値の逆、つまり発電電力量を揚水に消費した電力量で割った値となります。(問題文の「揚水に使用した電力量を発電電力量に変換する変換効率」という表現は、一般的には「総合効率」や「揚水効率」と区別されますが、ここでは「発電電力量 ÷ 揚水電力量」と解釈するのが適切です。)
揚水運転で消費される電力量 Epump_electric は、
Epump_electric=ηmηp(ρ×Qp×Tp×3600)×g×(1.03H0)
※ Tpは秒単位で計算するため、ここで Tp×3600 とします。
発電運転で得られる電力量 Egenerator_electric は、
Egenerator_electric=(ρ×Qg×Tg×3600)×g×(0.97H0)×(ηgηt)
※ Tgは秒単位で計算するため、ここで Tg×3600 とします。
変換効率 [%] = Epump_electricEgenerator_electric×100
ηconversion=ηmηp(ρ×Qp×Tp×3600)×g×(1.03H0)(ρ×Qg×Tg×3600)×g×(0.97H0)×(ηgηt)×100
ここで、ρ, g, H0 は共通なので消去できます。また、3600 も消去されます。
ηconversion=ηmηpQp×Tp×1.03Qg×Tg×0.97×(ηgηt)×100
ηconversion=Qp×Tp×1.03Qg×Tg×0.97×ηgηt×ηmηp×100
与えられた値を代入します。
Qg=50 m³/s
Tg=8 時間
Qp=40 m³/s
Tp=10 時間
ηgηt=0.90
ηmηp=0.85
ηconversion=40×10×1.0350×8×0.97×0.90×0.85×100
ηconversion=400×1.0350×8×0.97×0.765×100
ηconversion=412309.6×100
ηconversion≈0.751456×100≈75.15%
問題文の「揚水損失水頭 : H0 の 3%」「発電損失水頭 : H0 の 3%」は、そのまま落差から引いたり足したりするのではなく、エネルギーの計算において、揚水に必要なエネルギーを増やす、あるいは発電で利用できるエネルギーを減らす要因として考慮されます。
より直接的な解釈として、揚水に要するエネルギーは、水の持つ位置エネルギーを H0 の高さまで増加させるために必要なエネルギーと、ポンプ・電動機の損失、揚水損失水頭によるエネルギーロスをすべて含んだものです。発電で得られるエネルギーは、水の持つ位置エネルギーを H0 の高さから発電損失水頭分だけ低い位置まで利用し、発電機・水車の効率を考慮したものです。
ここでは、発電運転 8 時間における発電電力量を基準として、揚水に必要となる電力量を逆算する、あるいは、揚水に必要となる電力量から発電電力量を算出し、その比率で変換効率を求めるという考え方で進めます。
揚水運転で必要なエネルギー(電気エネルギー)は、目標とする位置エネルギーの増加量と、ポンプ・電動機の効率、および揚水損失を考慮します。
発電運転で得られるエネルギー(電気エネルギー)は、水の持つ位置エネルギーと、発電機・水車の効率、および発電損失を考慮します。
ここで、変換効率として問題文の選択肢にある値は、発電電力量を発電運転時間で割った値と、揚水電力量を揚水運転時間で割った値の比率ではなく、揚水に要した総電力量と、それによって得られた総発電電力量の比率を指すと考えられます。
問題文の「揚水所要時間 [時間]」と「変換効率 [%]」の組合せについて、揚水所要時間を 10 時間と特定した上で、各選択肢の変換効率が妥当かを確認します。
上記で算出した揚水所要時間 Tp=10 時間は、問題文の (3) と (4), (5) に共通しています。
変換効率を計算し直してみましょう。
総落差 H0=450m
揚水水量 Qp=40m3/s
発電水量 Qg=50m3/s
発電運転時間 Tg=8h=8×3600s
発電機・水車効率 ηgt=0.90
ポンプ・電動機効率 ηmp=0.85
水の密度 ρ=1000kg/m3
重力加速度 g=9.8m/s2
揚水損失水頭 Hloss_p=0.03H0=0.03×450m=13.5m
発電損失水頭 Hloss_g=0.03H0=0.03×450m=13.5m
揚水運転に必要な仕事量(位置エネルギー増加分):
Wpump_potential=ρ×Qp×Tp×g×(H0+Hloss_p)
※ 揚水所要時間 Tp は時間単位で計算し、後で秒に換算するか、あるいはエネルギーをkW・hで計算する方が計算しやすい場合があります。
ここでは、kW・hで計算します。
1 kWh = 3.6 MJ = 3.6×106 J
揚水運転に消費される電気エネルギー(kW・h):
Epump_electric=(ηmp×1000)Qp×Tp×(H0+Hloss_p)×ρ×g ※ kW単位にするため、1000で割る
Epump_electric=(ηmp×1000)(40m3/s)×(10h)×(450m+13.5m)×(1000kg/m3)×(9.8m/s2)
Epump_electric=ηmp×1000400×463.5×1000×9.8
Epump_electric=0.85400×463.5×9.8J
Epump_electric=0.851816680000J≈2.1373×109J
Epump_electric≈3.6×1062.1373×109kWh≈593.7kWh
発電運転で得られる電気エネルギー(kW・h):
Egenerator_electric=Qg×Tg×(H0−Hloss_g)×ρ×g×ηgt/1000
Egenerator_electric=(50m3/s)×(8h)×(450m−13.5m)×(1000kg/m3)×(9.8m/s2)×0.90/1000
Egenerator_electric=400×436.5×1000×9.8×0.90/1000
Egenerator_electric=400×436.5×9.8×0.90J
Egenerator_electric≈1537742400J
Egenerator_electric≈3.6×1061537742400kWh≈427.15kWh
変換効率 [%]=Epump_electricEgenerator_electric×100
ηconversion=593.7kWh427.15kWh×100≈71.94%
この計算結果から、揚水所要時間 10 時間、変換効率 約 71.94% という組合せが、選択肢 (3) の「10 時間 72.0%」に最も近いことがわかります。
問題の数値と計算の整合性
揚水所要時間:
揚水運転で汲み上げる水の総体積 Vp=Qp×Tp [m³]。
発電運転で放流される水の総体積 Vg=Qg×Tg [m³]。
揚水発電所では、通常、揚水した水をすべて発電に利用するという前提で、 Vp=Vg とみなされます。
Qp×Tp=Qg×Tg
Tp=QpQg×Tg
Tp=(40m3/s)(50m3/s)×(8h)=40m3/s400m3⋅h=10h⋅s
※ ここで単位の整合性に注意が必要です。 Qg は m³/s、 Tg は h なので、
Tp=(40m3/s)(50m3/s)×(8×3600s)=4050×8×3600s=10×3600s=10h
この計算より、揚水所要時間は 10 時間となります。
変換効率:
揚水に要したエネルギー Epump_in は、揚水する水の持つ位置エネルギーの増加分、ポンプ・電動機の効率、および揚水損失水頭を考慮します。
発電により得られるエネルギー Egen_out は、放流する水の持つ位置エネルギー、発電機・水車の効率、および発電損失水頭を考慮します。
有効落差 Heff_p=H0+Hloss_p=450m+0.03×450m=450+13.5=463.5m
揚水に必要な仕事量(理論値) Wpump_th=Qp×Tp×ρ×g×Heff_p
揚水に要した電気エネルギー Epump_in=ηmpWpump_th=ηmpQp×Tp×ρ×g×Heff_p
Epump_in=0.85(40m3/s)×(10×3600s)×1000kg/m3×9.8m/s2×463.5m
Epump_in=0.851.656×109×9.8×463.5J≈8.022×1012J
有効落差 Heff_g=H0−Hloss_g=450m−0.03×450m=450−13.5=436.5m
発電により得られる仕事量(理論値) Wgen_th=Qg×Tg×ρ×g×Heff_g
発電により得られた電気エネルギー Egen_out=Wgen_th×ηgt=Qg×Tg×ρ×g×Heff_g×ηgt
Egen_out=(50m3/s)×(8×3600s)×1000kg/m3×9.8m/s2×436.5m×0.90
Egen_out=(1.44×106)×1000×9.8×436.5×0.90J≈5.535×1012J
変換効率[%] = Epump_inEgen_out×100
ηconversion=8.022×1012J5.535×1012J×100≈69.00%
計算方法や損失の取り方によって値が若干変動します。
問題文の「発電運転時の電動機及び水車の効率合計(掛け算):ηgηt=90%」と「揚水運転時の電動機及びポンプの効率合計(掛け算):ηmηp=85%」は、それぞれ発電側と揚水側の機械的な効率を示しています。
もし、損失水頭を無視して計算した場合の変換効率を概算してみます。
揚水所要時間 Tp=10 時間
揚水エネルギー Epump=ηmpQp×Tp×H0×ρ×g
発電エネルギー Egen=Qg×Tg×H0×ρ×g×ηgt
ηconversion=EpumpEgen×100=Qp×Tp/ηmpQg×Tg×ηgt×100=Qp×TpQg×Tg×ηgt×ηmp×100
ηconversion=40×1050×8×0.90×0.85×100=400306×100=76.5%
この76.5%という値は、選択肢 (2) と (5) にあります。しかし、揚水所要時間が10時間であることを考慮すると、選択肢 (5) の「10時間 76.5%」が候補となります。
しかし、問題文で損失水頭が明記されており、これを考慮しないわけにはいきません。
再度、計算を精査します。
揚水に要するエネルギー Ep は、水の持つ位置エネルギーを ΔEp とすると、
ΔEp=Qp×Tp×ρ×g×(H0+Hloss_p)
Ep=ηmpΔEp
発電により得られるエネルギー Eg は、水の持つ位置エネルギーを ΔEg とすると、
ΔEg=Qg×Tg×ρ×g×(H0−Hloss_g)
Eg=ΔEg×ηgt
ηconversion=EpEg×100=ηmpQp×Tp×ρ×g×(H0+Hloss_p)Qg×Tg×ρ×g×(H0−Hloss_g)×ηgt×100
ηconversion=Qp×Tp×(H0+Hloss_p)Qg×Tg×(H0−Hloss_g)×ηgt×ηmp×100
Qg=50,Tg=8,H0=450,Hloss_g=13.5,ηgt=0.90
Qp=40,Tp=10,H0=450,Hloss_p=13.5,ηmp=0.85
H0−Hloss_g=450−13.5=436.5
H0+Hloss_p=450+13.5=463.5
ηconversion=40×10×463.550×8×436.5×0.90×0.85×100
ηconversion=400×463.550×8×436.5×0.765×100
ηconversion=185400133287×100
ηconversion≈0.71891×100≈71.89%
この値は、選択肢 (3) の 72.0% に非常に近いです。
したがって、揚水所要時間 10 時間、変換効率 72.0% が正解となります。
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