令和4年度第三種電気主任技術者下期試験 電力科目 問140 解説 問14 令和4年度第三種電気主任技術者下期試験 電力科目 問14
問14 次の文章は,絶縁油の性質に関する記述である。 絶縁油は変圧器や OF ケーブルなどに使用されており,一般に絶縁破壊電圧は同じ圧力の空気と比べて高く,誘電正接が [ (ア) ] 絶縁油を用いることで絶縁油中の [ (イ) ] を抑えることができる。電力用機器の絶縁油として古くから [ (ウ) ] が一般的に用いられてきたが,より優れた低損失性や信頼性が求められる場合には [ (エ) ] が採用されている。 上記の記述中の空白箇所(ア)~(エ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- (1) (ア)大きい / (イ)部分放電 / (ウ)植物油 / (エ)鉱油
- (2) (ア)小さい / (イ)発熱 / (ウ)鉱油 / (エ)合成油 ✓ 正答
- (3) (ア)大きい / (イ)発熱 / (ウ)植物油 / (エ)鉱油
- (4) (ア)小さい / (イ)部分放電 / (ウ)鉱油 / (エ)合成油
- (5) (ア)小さい / (イ)発熱 / (ウ)植物油 / (エ)合成油
解説
絶縁油として古くから用いられてきた鉱油の特性や、誘電正接に起因する発熱損失を考慮すると、誘電正接が小さいものを選んで損失を抑え、より高性能なものには合成油を採用するという選択肢(2)が正答になります。
絶縁油の誘電正接と損失の法則
交流の電圧が加わる電気機器の絶縁体(誘電体)には、交番電界によってエネルギーが消費される現象が存在します。この現象は誘電体損失と呼ばれ、その大きさは誘電体損失の法則によって導かれます。
理想的なコンデンサ(絶縁体)に交流電圧を加えたとき、流れる電流は電圧に対して位相が90度進みます。しかし、実際の絶縁材料にはわずかな導電性があるほか、交番電界によって絶縁材料を構成する分子が激しく向きを変える際に摩擦のような抵抗が生じます。これにより、電流の位相の進みは90度よりもわずかに遅れることになります。
この90度からの遅れ角を損失角 と呼び、その正接である を誘電正接と呼びます。誘電体損失(電力損失) は、以下の誘電体損失の式で表されます。
ここで は交流の周波数、 は絶縁物の静電容量、 は印加電圧です。この関係式から、誘電正接 が大きいほど、絶縁物内部で消費されて熱に変わるエネルギー(損失)が大きくなることが分かります。高電圧が加わる電力用機器では、この誘電体損失による熱が絶縁油の温度を上昇させ、劣化を促進する原因となるため、誘電正接が極めて小さい絶縁油を選定する必要があります。
電力用機器における絶縁油の変遷
電力用の変圧器やOF(Oil-Filled)ケーブルでは、優れた絶縁性能と冷却性能を両立する液体絶縁材料として、古くから原油を精製して作られる鉱油が広く使われてきました。鉱油は化学的に比較的安定しており、絶縁破壊電圧が空気よりも大幅に高く、しかも安価で大量に調達できるため、電力技術の基礎を支えてきました。
しかし、送電電圧の超高圧化や機器のコンパクト化が進むにつれ、より厳しい熱的安定性や、極めて低い誘電正接(低損失性)が求められるようになりました。そこで、人工的に特定の化学構造を持つ化合物を合成して製造された合成油が開発されました。合成油には、アルキルベンゼンやシリコーン油などがあり、これらは鉱油に比べて熱に強く、誘電正接が極めて小さいため、高い信頼性が要求される超高圧OFケーブルや特殊な変圧器などで重要な役割を担っています。
絶縁油の特性と空欄の決定
誘電正接が小さい油を用いることで発熱を抑える 誘電体損失の式 が示す通り、絶縁油の誘電正接 が(ア)小さいものを用いることで、交番電界によるエネルギー消費、すなわち絶縁油中の(イ)発熱を抑えることができます。部分放電は電界が局所的に集中した場所に発生する微弱な放電現象であり、誘電正接の大きさが直接の引き金となるものではありません。誘電正接によるエネルギーロスは、そのすべてが熱として現れます。
信頼性や低損失性が求められる箇所には合成油を用いる 変圧器などの電力用機器の絶縁油として、十分な絶縁性能と経済性のバランスから古くから一般的に用いられてきたのは(ウ)鉱油です。植物油は環境負荷を低減する目的で近年一部の配電用変圧器などで採用され始めていますが、歴史的な一般性や実績では鉱油が主流です。さらに優れた低損失性や高い信頼性が必要な場合には、化学的に設計された(エ)合成油が採用されます。
変圧器の構造図やケーブルの断面図に描かれた絶縁油の配置を思い浮かべながら、その中で絶えず繰り返される交番電界と分子の動きを重ねてみると、わずかな誘電正接がもたらす熱の発生とその抑制対策の重要性が見えてきます。