令和4年度第三種電気主任技術者下期試験 電力科目 問80 解説 問8 令和4年度第三種電気主任技術者下期試験 電力科目 問8
問8 問 8 架空送電線路の構成要素に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- (1) アークホーン : がいしの両端に設けられた金属電極をいい,雷サージによるフラッシオーバの際生じるアークを電極間に生じさせ,がいし破損を防止するものである。
- (2) トーショナルダンパ : 着雪防止が目的で電線に取り付ける。風による振動エネルギーで着雪を防止し,ギャロッピングによる電線間の短絡事故などを防止するものである。 ✓ 正答
- (3) アーマロッド : 電線の振動疲労防止やアークスポットによる電線溶断防止のため,クランプ付近の電線に同一材質の金属を巻き付けるものである。
- (4) 相間スペーサ : 強風などによる電線相互の接近及び衝突を防止するため,電線相互の間隔を保持する器具として取り付けるものである。
- (5) 埋設地線 : 塔脚の地下に放射状に埋設された接地線,あるいは,いくつかの鉄塔を地下で連結する接地線をいい,鉄塔の塔脚接地抵抗を小さくし,逆フラッシオーバを抑止する目的等のため取り付けるものである。
解説
架空送電線路において、トーショナルダンパは微風振動による電線の疲労断線を防止するための器具であり、風による振動エネルギーで着雪を防止するものではないため、選択肢(2)の記述が誤りです。
微風振動とギャロッピングの発生メカニズムと対策器具の性質
架空送電線路を安全に維持するためには、風や氷雪が原因で発生する様々な電線の振動現象と、それに対処するための各種器具の役割を正確に理解しておく必要があります。
特に試験でよく問われる重要な物理現象が、カルマン渦の法則に関連する微風振動です。電線に対して直角に穏やかで一様な風(風速毎秒1から6メートル程度)が吹くと、電線の背後に交互に空気の渦であるカルマン渦が発生します。この渦が剥離するときに電線に上下方向の周期的な力が働き、その周波数が電線の固有振動数と一致すると共振を起こします。これが微風振動と呼ばれる現象です。微風振動は周波数が10から30ヘルツと高く、振幅は数センチメートル程度と小さいものの、これが長期間繰り返されることで電線を支持するクランプ付近に金属疲労が蓄積し、最終的には電線が断線する疲労断線を引き起こす原因となります。
この微風振動による被害を防ぐための代表的な器具がダンパです。ダンパには、電線におもりを取り付けてその慣性力で振動エネルギーを吸収するストックブリッジダンパや、電線に偏心したおもりを取り付けて微風振動のエネルギーを電線のねじれ運動に変換し、内摩擦によって減衰させるトーショナルダンパがあります。
一方、電線に氷雪が非対称に付着した状態で強い風(風速毎秒10メートル以上)を受けると、電線が飛行機の翼のような断面形状となり、風から揚力を受けることで大きな上下振動が発生します。これがギャロッピングと呼ばれる現象です。ギャロッピングは周波数が1ヘルツ以下と極めて低いものの、振幅が数メートルに達することがあり、電線同士が接触して短絡事故を起こす重大な要因となります。ギャロッピングへの対策としては、電線相互の間隔を一定に保つ相間スペーサの設置や、電線のねじれ特性を利用して氷雪の付着そのものを抑制する難着雪リングの装着などが効果的です。
架空送電線路の振動現象と対策器具の対応
微風振動の発生要因とトーショナルダンパの役割を確認する 微風振動は、穏やかな風によって発生するカルマン渦との共振現象であり、電線のクランプ付近における金属疲労を防止することが主目的です。トーショナルダンパは、この微風振動の振動エネルギーを電線のねじり振動に変換して減衰させるために取り付けられます。したがって、風による振動を利用して着雪を防止するという機能や目的は持っていません。
ギャロッピングの発生要因と着雪防止対策の器具を整理する ギャロッピングは電線に付着した氷雪に風が当たることで発生する揚力による大振幅振動です。これに対する根本的な着雪防止対策としては、電線にプラスチック製のリングを取り付けて風圧で回転・脱雪させる難着雪リングや、最初から着雪しにくい構造にした難着雪電線が用いられます。トーショナルダンパは、ギャロッピング自体の発生や着雪の防止を直接の目的とする器具ではないため、選択肢(2)の記述は誤りであると判断できます。
その他の構成要素の機能が正しい記述であることを確認する 選択肢(1)のアークホーンは、雷による高電圧が原因でがいし周辺の空気が絶縁破壊する際、アークを金属電極間に誘導してがいし本体の熱的破損を防ぐものです。 選択肢(3)のアーマロッドは、電線支持点付近に同一材質の金属線を巻き付けることで、微風振動による疲労を和らげるとともに、万が一のアーク発生時にも電線本体が溶断するのを防ぐものです。 選択肢(4)の相間スペーサは、ギャロッピングや強風時に電線同士が接近して短絡するのを防ぐため、電線間の距離を強制的に維持する器具です。 選択肢(5)の埋設地線は、鉄塔の地下に埋設して接地抵抗を下げることで、鉄塔に雷が落ちた際にがいし側から電線側へ高電圧が逆流する逆フラッシオーバを抑制するものです。これらはすべて送電線路の標準的な保護・保安対策として正しい記述です。
電線を吹き抜ける風の強さと、それによって電線の背後に生じる空気の渦、そして付着する氷雪の重みを頭の中で重ね合わせてみると、それぞれの器具が設置されている理由と役割が見えてきます。