令和6年度第三種電気主任技術者下期試験 機械科目 問130 解説 問13 問13
問13 次の文章は,プロセス制御に関する記述である。プロセス制御にはPID制御が非常によく用いられている。その中で積分動作は主として(ア)特性の改善に,微分動作は(イ)特性の改善に有効であり,また,(ウ)動作は両方の特性を,ともにある程度改善することができる。これらの動作をディジタル処理を介して行う方法が最近よく用いられている。上記の記述中の空白箇所(ア)~(ウ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- (1) 定常 過渡 加算
- (2) 定常 過渡 比例 ✓ 正答
- (3) 過渡 定常 比例
- (4) 過渡 定常 加算
- (5) 定常 過渡 減算
解説
プロセス制御において、目標値と現在値の差である偏差を過去から蓄積して定常偏差を失くす積分動作は定常特性の改善に効き、偏差の変化速度を捉えて過渡的な揺れや急変を抑える微分動作は過渡特性の改善に効き、現在の偏差に直接比例して操作量を決める比例動作は定常と過渡の両特性をともにある程度改善することから、正しい組合せは(2)となります。
PID制御における制御動作と応答特性
プロセス制御をはじめとする自動制御では、制御対象の出力(制御量)を目標値に一致させるフィードバック制御が広く用いられます。このとき、目標値と現在の制御量との間に生じる差を偏差 と呼び、この偏差を小さくするように制御機器へ送る操作量を計算する代表的な手法がPID制御です。PID制御の応答性は、時間的な経過に伴う状態の変化によって「過渡特性」と「定常特性」の2つの側面から評価されます。
過渡特性とは、目標値を変更した直後や外部からの邪魔が入った(外乱が発生した)直後など、状態が揺れ動いている変化の過程(過渡状態)における挙動の性質です。応答がどれだけ速いかという速応性や、目標値をどれだけ行き過ぎるかというオーバーシュート量、揺れが収まるまでの安定性などが過渡特性に含まれます。
一方、定常特性とは、変化が十分に落ち着いた後の状態(定常状態)における挙動の性質です。時間が十分に経過してもなお残ってしまう目標値と制御量との一定のズレを定常偏差(オフセット)と呼び、この定常偏差をどれだけ小さくできるかが定常特性の評価基準となります。
PID制御は、比例動作(P動作)、積分動作(I動作)、微分動作(D動作)という3つの制御動作を組み合わせて構成されています。
比例動作(P動作)は、現在の偏差 の大きさに比例した操作量を出力する制御動作です。偏差が大きければ大きな補正を行うため、過渡状態での立ち上がりを速くすると同時に、定常状態での偏差も減少させます。このように、比例動作は過渡特性と定常特性の両方をある程度改善する基礎的な役割を担いますが、比例動作のみでは構造上、定常偏差を完全に零にすることはできません。
積分動作(I動作)は、過去から現在までの偏差 を時間的に積み上げた値(積分値 )に比例した操作量を出力する制御動作です。たとえ偏差が小さくても、時間が経過するにつれて積分値が大きくなるため、操作量を強く押し出すことができます。この働きにより、比例動作だけでは残ってしまう小さな定常偏差を時間をかけて完全に打ち消し、定常特性を大きく改善します。
微分動作(D動作)は、現在の偏差が変化する速度(微分値 )に比例した操作量を出力する制御動作です。偏差が急激に増大しようとするとき、その変化の勢いを察知してあらかじめブレーキをかけるような逆向きの操作を行います。これにより、制御量のオーバーシュートや揺れを効果的に抑え込み、目標値へ短時間で安定させるため、過渡特性の改善に威力を発揮します。
PID制御の動作特性と各空欄の判定
空欄(ア)について、時間の経過とともに蓄積される偏差の積分値を用いて、定常状態に残る目標値とのズレ(定常偏差)を完全に消去する役割を持つのは積分動作です。したがって、(ア)に該当する性質は定常特性であり、「定常」が入ります。
空欄(イ)について、偏差の変化率を捉えて将来の動きを予測し、急激な変動や overshoot を抑制して立ち上がり過程の安定性を向上させる役割を持つのは微分動作です。したがって、(イ)に該当する性質は過渡状態における挙動を指すため、「過渡」が入ります。
空欄(ウ)について、現在の偏差の大きさに比例した操作力を発生させ、変化の過渡状態における応答速度を高めると同時に定常偏差を減らすという、両方の特性をともにある程度改善する動作は比例動作(Proportional control)です。選択肢にある「加算」や「減算」はPID制御を構成する制御動作の名称ではないため除外され、(ウ)には「比例」が入ります。
目標値へ近づいていく過渡的な波形の揺れ具合と、落ち着いた後に残る定常偏差の大きさに着目すると、各制御動作がどの相に作用しているのかが見えてきます。