令和6年度第三種電気主任技術者上期試験 法規科目 問50 解説 問5 問5
問5 次の文章は,「発電用風力設備に関する技術基準を定める省令」に基づく風車の安全な状態の確保に関する記述である。a) 風車は,次の場合に安全かつ自動的に停止するような措置を講じなければならない。① (ア) が著しく上昇した場合② 風車の (イ) の機能が著しく低下した場合b) 発電用風力設備が一般用電気工作物又は小規模事業用電気工作物である場合には,上記a)の記述は,同記述中「安全かつ自動的に停止するような措置」とあるのは「安全な状態を確保するような措置」と読み替えて適用するものとする。c) 最高部の (ウ) からの高さが20mを超える発電用風力設備には, (エ) から風車を保護するような措置を講じなければならない。ただし,周囲の状況によって (エ) が風車を損傷するおそれがない場合においては,この限りでない。上記の記述中の空白箇所(ア)~(エ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- (1) 回転速度,制御装置,ロータ最低部,雷撃
- (2) 発電電圧,圧油装置,地表,雷撃
- (3) 回転速度,制御装置,地表,雷撃 ✓ 正答
- (4) 発電電圧,制御装置,ロータ最低部,強風
- (5) 回転速度,圧油装置,ロータ最低部,強風
解説
「発電用風力設備に関する技術基準を定める省令」第4条において、風車は過回転や制御機能喪失時に自律的に停止すること、および地表から20mを超える高さの設備には落雷対策を施すことが規定されているため、空白箇所を正しく組み合わせた選択肢(3)が正答となります。
風車の回転運動と雷撃の受雷特性に関する物理的性質
風力発電設備は、風の運動エネルギーをブレードの回転によって電気エネルギーに変換するシステムです。この変換プロセスにおいて、設備全体の安全を維持するためには、回転運動に伴う力学的な制約と、高層建造物特有の電気的な自然災害リスクを考慮する必要があります。
風車が回転するとき、回転するブレードの各構成部材には、回転中心から外側に向かって引っ張られる遠心力が作用します。回転体の質量を m、回転半径を r、角速度を ω とすると、遠心力 F は次の物理法則によって表されます。
F = m r \omega^2
この式が示すように、遠心力は角速度 ω の2乗、すなわち回転速度の2乗に比例して増大します。風速が設計時の許容値を超えたり、系統連系が遮断されて発電機による負荷(電気的なブレーキ力)が急激に失われたりすると、風車は過回転と呼ばれる異常な高速回転状態に陥ります。回転速度が著しく上昇すると、遠心力は指数関数的に増加し、ブレードの固定部やタワーの強度限界を超えて部材が四散する致命的な機械的破壊を引き起こします。
このような事態を防ぐため、風車にはブレードの角度を変化させて風の力を逃がすピッチ制御や、回転軸を物理的に制動するブレーキ装置などの制御システムが備えられています。これらのシステムを統合的に管理する制御装置は、風車の健全性を維持する頭脳にあたります。制御装置の機能が低下した場合には、システム自体の異常を検知してシステムを安全な側(停止状態)へ自律的に移行させるという、フェールセーフの設計思想に基づいた保護動作が不可欠です。
一方、高さを持つ工作物は、落雷を受けやすいという物理的な電気特性を持っています。雲の中に蓄積された電荷が地表に向かって放電しようとするとき、地表から空に向かって高く突出した導体の先端部には電界が著しく集中します。電界が強まると、空気の絶縁破壊が進んで放電路が形成されやすくなり、落雷を引き寄せます。
日本の保安基準や避雷針の設置基準(建築基準法など)では、受雷確率が急増する高さの境界として地表から20mという閾値が広く用いられています。風力発電設備もこの静電的な法則に違わず、一定の基準高さを超えるものについては、ブレードの先端(レセプタ)からグランド(接地極)へと雷電流を安全に受け流すための雷撃保護措置が義務付けられています。
風車の異常動作時における安全確保の判断
風車の物理的破壊を招く要因の判断 風車が受ける物理的損傷のうち、最も破滅的な影響を与えるのは機械的な遠心力の増大です。過電圧などの電気的異常よりも先に、遠心力による材料破壊を防ぐために検知すべき物理量は回転速度です。したがって、著しく上昇した場合に自動停止を行うトリガーとなる(ア)には「回転速度」が当てはまります。
自動停止を司る基幹システムの特定 回転速度の異常を検知した際に、翼の角度(ピッチ角)を変えたりブレーキを作動させたりする司令塔は、各種センサーとアクチュエータを統括するシステムです。油圧を発生させる圧油装置も作動の一部を担いますが、自己診断機能等によって機能低下時に自動停止を決定する責任を持つのは包括的な装置です。したがって、(イ)には「制御装置」が当てはまります。
高度に応じた防護対策の判断
高さを測定する基準面の決定 工作物の避雷対策において、雷がアプローチする空間的な高さは基礎があるグラウンドレベルを基準として測定されます。風車のブレードが回る軌道の下限であるロータ最低部ではなく、構造物の全体的な高さを評価する必要があるため、基準面は周囲の地平面となります。したがって、(ウ)には「地表」が当てはまります。
高さ20mで急増する自然災害リスクの特定 高さが20mを超えたことで急激に被災確率が上昇し、専用の保護導線などのハードウェア的対策を特に追加しなければならない対象は、電界集中の物理現象による放電現象です。強風に対する強度設計はすべての風車に必須の基本要件ですが、20mという高さの閾値をもって特別な保護措置が規定されるのは雷対策となります。したがって、(エ)には「雷撃」が当てはまります。
最高部が地表から高く突き出た風車のブレードが描く円軌道と、上空の雷雲から伸びる落雷の経路を重ねてみると、安全を確保するために施すべき保護措置の必要性が見えてきます。