令和8年度第三種電気主任技術者上期試験 機械科目 問70 解説 問7
次の文章は,交流整流子モータに関する記述である。交流整流子モータは,直流直巻電動機に類似した構造となっている。直流直巻電動機では,加える直流電圧の極性を逆にしても,磁束と電機子電流の向きが共に (ア) ので,トルクの向きは変わらない。交流整流子モータは,この原理に基づき回転力を得ている。構造上の特徴として,交流整流子モータでは,磁気回路の磁束が交番するので,界磁鉄心および継鉄を (イ) としていることが挙げられる。交流整流子モータは,一般に始動トルクが大きく,回転速度が (ウ) なので,電気ドリル,電気掃除機,小型ミキサなどのモータとして用いられている。なお,小容量のものでは,交流と直流の両方に使用できるものもあり, (エ) と呼ばれる。上記の記述中の空白箇所(ア)〜(エ)に当てはまる組合せとして,正しいものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。
- (ア) 逆になる (イ) 塊状鉄心 (ウ) 高速 (エ) ユニバーサルモータ
- (ア) 逆になる (イ) 積層鉄心 (ウ) 高速 (エ) ユニバーサルモータ ✓ 正答
- (ア) 変わらない (イ) 積層鉄心 (ウ) 低速 (エ) ブラシレス DC モータ
- (ア) 変わらない (イ) 塊状鉄心 (ウ) 低速 (エ) ユニバーサルモータ
- (ア) 変わらない (イ) 積層鉄心 (ウ) 高速 (エ) ブラシレス DC モータ
解説
直流直巻電動機において加える直流電圧の極性を逆にすると磁束と電機子電流の向きが共に逆になるためトルクの向きが変わらない原理を応用し、交番磁束による鉄損を抑える積層鉄心と高速回転特性を備え、AC/DC共用可能なユニバーサルモータとなる組み合わせが正答となります。
判断の土台となる性質と法則
フレミングの左手の法則とトルクの発生原理
電動機の回転力(トルク)は、磁束と電流の相互作用によって生じます。この力の発生する向きはフレミングの左手の法則で説明されます。人差し指を磁界の向き、中指を電流の向きに合わせると、親指の指す向きが導体に働く力の向きとなります。
直流直巻電動機は、磁束を作る界磁巻線と、トルクを発生させる電機子巻線が直列に接続されています。電源の電圧の極性を反転させると、界磁巻線を流れる電流の向きが逆になって磁束の向きが反対になると同時に、電機子巻線を流れる電流の向きも反対になります。フレミングの左手の法則において、磁界の向きと電流の向きの両方が同時に逆になると、それらの組み合わせで決まる力の向き(親指の向き)は反転せず、同じ方向を維持します。交流電源を入力した場合でも、電圧の極性が周期的に入れ替わるたびに磁束と電流が同時に反転するため、常に一定の方向にトルクが発生して回転を続けることができます。
交番磁束と渦電流損・ヒステリシス損
交流電流を界磁巻線に流すと、鉄心内部を通る磁束の向きと大きさが時間とともに常に変化する交番磁束となります。ファラデーの電磁誘導の法則に基づき、変化する磁束は鉄心の内部に起電力を生じさせ、鉄心自体の中に渦状の電流(渦電流)を流します。この渦電流によって発生する熱エネルギー損失を渦電流損と呼びます。また、磁束の向きが交互に入れ替わることで磁気ヒステリシス現象によるヒステリシス損も発生します。これらを合わせた損失を鉄損と呼びます。
直流電動機では界磁鉄心の磁束が時間的にほぼ一定であるため塊状鉄心(1つの大きな鉄の塊)が使われますが、交流整流子モータでは交番磁束による渦電流損を抑制するために、表面を絶縁被覆した薄い電気鋼板を重ね合わせた積層鉄心を用いる必要があります。
交流整流子モータ(ユニバーサルモータ)の特性
交流整流子モータは、直巻電動機の特性を引き継いでいるため、始動時に非常に大きなトルクを発生します。また、負荷が小さくなると回転速度が飛躍的に高くなる特性を持ち、小型でありながら数万 rpm に及ぶ高速回転が可能です。そのため、小型軽量でハイパワーかつ高速回転が求められる電気ドリル、電気掃除機、小型ミキサなどに広く採用されています。
構造が直流直巻電動機とほぼ同じであり、交流と直流のどちらの電源でも動作可能な小容量のモータは、汎用性を意味するユニバーサルモータと呼ばれます。一方で、選択肢にあるブラシレス DC モータは永久磁石と電子制御回路を用いて磁界を切り替える電動機であり、整流子やブラシを持たないため構造や動作原理が異なります。
交流整流子モータの構造と動作特性の判定
空欄(ア)の判定 直流直巻電動機では界磁と電機子が直列接続されているため、電源電圧の極性を逆にすると、界磁電流がつくる磁束の向きと電機子電流の向きが共に「逆になる」変化を起こします。磁界と電流の2つの向きが同時に逆転することで、フレミングの左手の法則により発生する力の向きは変化せず、同一方向のトルクが得られます。「変わらない」とする選択肢は誤りです。
空欄(イ)の判定 交流電源で駆動すると界磁鉄心内を交番磁束が通るため、ファラデーの電磁誘導の法則により鉄心内部に渦電流が発生します。この渦電流損を低減するための構造として、薄い鋼板を重ねた「積層鉄心」を界磁鉄心および継鉄に使用します。塊状鉄心では渦電流が大きく流れて過熱してしまうため不適切です。
空欄(ウ)の判定 交流整流子モータは直巻特性を持ち、小型でありながら回転速度が「高速」になる特徴を有します。このため、高速回転で吸引・研磨・撹拌を行う電気掃除機、電気ドリル、小型ミキサに適しています。「低速」とする選択肢は特性と合致しません。
空欄(エ)の判定 交流と直流の双方で駆動できる小型の整流子モータは「ユニバーサルモータ」と呼ばれます。ブラシレス DC モータは、機械的な整流子とブラシを排除して電子回路で電流を制御するモータであり、直巻電動機類似の構造を持つ整流子モータとは異なるため誤りです。
直巻回路における電流の流れと、鉄心を通る磁束の変化に目を向けてみると、力が発生する向きと鉄損を防ぐ構造の理由が見えてきます。