令和8年度第三種電気主任技術者上期試験 機械科目 問80 解説 問8
電力用大形変圧器の温度上昇試験の一つに返還負荷法がある。この試験法では,外部電源から鉄損と銅損に相当する電力のみを供給すればよいので試験電源が比較的小規模なものですむ。単相変圧器におけるこの試験の結線方法及び図中に示す鉄損,銅損の供給方法として,次の(1)〜(5)のうちから正しいものを一つ選べ。ただし,T1,T2は試験対象となる同じ仕様の変圧器,T3は補助変圧器であり,鉄損を供給する電源Eの電圧は定格電圧とする。
- (1)
- (2)
- (3)
- (4) ✓ 正答
- (5)
解説
試験対象である同仕様の単相変圧器T1とT2の一次側へ電源Eから同一極性で定格電圧を並列に印加して定格鉄損を供給し、二次側同士を誘起電圧が相殺される直列反対向きに接続して補助変圧器T3から定格電流を流すことで定格銅損を供給する結線を示しているのは(4)です。
返還負荷法の原理と重ね合わせの理・キルヒホッフの法則
電力用大形変圧器の温度上昇試験では、実際に全負荷電力を消費させると膨大な電力と大容量の電源設備が必要となります。これに対し、変圧器内部で発生する熱の要因である鉄損(無負荷損)と銅損(負荷損)に相当する電力のみを外部電源から供給し、実負荷状態と同じ温度上昇を再現する試験法が返還負荷法です。
この試験回路の動作は、電気回路における重ね合わせの原理とキルヒホッフの電圧法則によって説明されます。回路内に存在する電源E(定格電圧供給用)と補助変圧器T3(定格電流供給用)の2つの電源は、お互いの動作を邪魔することなく独立して機能します。
電源Eは、同じ仕様の変圧器T1とT2の一次巻線に対して、同極性(同位相)になるよう並列に定格電圧を印加します。これにより、T1とT2の鉄心には定格通りの磁束が通り、定格の鉄損が発生します。
このとき、ファラデーの電磁誘導の法則によってT1とT2の二次巻線にもそれぞれ等しい大きさで同位相の電圧が誘起されます。しかし、二次回路はT1とT2の誘起電圧が互いに向き合う直列反対接続(差動接続)となっています。回路の一周にわたって電圧を足し合わせるキルヒホッフの電圧法則を適用すると、電源Eによって二次回路全体に生じる合成起電力は となり、完全に相殺されます。そのため、電源Eの存在によって二次回路へ流れる電流はゼロとなり、電源Eから負荷電流が供給されることはありません。
一方、補助変圧器T3から見ると、二次回路の合成起電力はゼロであるため、自身の低電圧電源から定格電流(循環電流)を極めて小さな容量で押し込むことができます。この循環電流は二次巻線を通って一次巻線へも変圧比に応じて返還され、T1とT2の全巻線に定格電流を流して定格の銅損を供給します。
単相変圧器2台による返還負荷法の結線判断
鉄損供給のための一次側同相並列接続を判断する 2台の変圧器T1とT2に定格電圧を加えるため、一次側は電源Eに対して並列に接続されている必要があります。さらに、両方の鉄心を同じ位相で励磁するために、T1の黒丸端子(極性表示)とT2の黒丸端子が電源Eの同じ極性側に接続されていなければなりません。(1)や(5)の結線では、電源Eの一端がT1の黒丸端子とT2の非黒丸端子に分かれて接続されており、一次側が逆相(異相)並列接続になっているため誤りです。
銅損供給のための二次側直列反対接続を判断する 電源Eによる二次誘起電圧が補助変圧器T3の回路へ影響を及ぼさないよう、二次側は誘起電圧が相殺される直列反対接続にする必要があります。具体的には、T1の黒丸端子とT2の黒丸端子が互いに向き合い、回路全体での合成起電力がゼロになる構成を選びます。(3)の結線では、T1の非黒丸端子とT2の黒丸端子が接続されており、誘起電圧が加算される和動接続となっています。和動接続では二次側全体に定格電圧の2倍の電圧が発生し、補助変圧器T3側へ過大な短絡電流が流れてしまうため正しくありません。
条件をすべて満たす回路図を選択する 一次側が電源Eに対して同一極性で並列接続され、二次側が誘起電圧を相殺する直列反対接続で補助変圧器T3に接続されているのは(4)です。
変圧器 T1・T2 の各端子についた黒丸印の向きと、電源 E および補助変圧器 T3 から辿れる電流の輪を重ねてみると、鉄損と銅損が独立して供給される仕組みが見えてきます。