第三種電気主任技術者試験 / 令和8年度 上期 第3種 理論 / 各問題解説 / 問100
certification-simodake-work

令和8年度 上期 第3種 理論 問100 解説 問10

設問図

図 10 のように,電圧 E [V] の直流電源,開いた状態のスイッチ S,抵抗値 R [Ω] の抵抗及びインダクタンス L [H] のコイルからなる回路がある。この回路において,スイッチ S を時刻 t = 0 s で閉じた場合に流れる電流 i [A],各素子の端子間電圧 eR [V],eL [V] に関する記述として,誤っているものを次の (1) ~ (5) のうちから一つ選べ。ただし,自然対数の底を 2.718 とする。

  1. この回路の時定数は,R の値 [Ω] に反比例する。
  2. コイルの端子間電圧 eL [V] は,L の値 [H] が大きいほど緩やかに変化する。
  3. 時刻 t = 0 s から回路の時定数の 2 倍だけ時間が経過すると,抵抗の端子間電圧 eR [V] は電源電圧 E [V] の 0.865 倍に等しい。
  4. 時刻 t = 0 s から回路の時定数だけ時間が経過すると,コイルの端子間電圧 eL [V] は電源電圧 E [V] の 0.632 倍に等しい。 ✓ 正答
  5. 時刻 t = 0 s から回路の時定数だけ時間が経過すると,電流 i [A] は E/R の 0.632 倍に等しい。

解説

このRL直列回路では、スイッチSを閉じた瞬間に発生する過渡現象において、コイルの端子間電圧 vLv_L [V] が指数関数的に減少するのに対し、選択肢(4)の記述は、電流 ii [A] や抵抗の端子間電圧 vRv_R [V] のように指数関数的に増加する量の値と混同しているため、誤りです。

RL直列回路の過渡現象と時定数

図のような直流電源と抵抗、コイルが直列に接続されたRL直列回路において、スイッチSを閉じた(投入した)直後から回路の電流や各素子の電圧は時間とともに変化します。この一時的な変化を「過渡現象」と呼びます。

コイルには、流れる電流の変化を妨げようとする性質(自己誘導作用)があります。そのため、スイッチを閉じた瞬間に電流が急激に流れることを防ぎ、電流は0から徐々に増加していきます。最終的に、十分時間が経過して電流が一定になると、直流電流に対してコイルは抵抗成分を持たず、理想的には短絡状態とみなせるため、回路の電流は抵抗Rのみによって決まる値に落ち着きます。

この過渡現象の速さを示す重要な指標が「時定数 τ\tau (タウ)」です。RL直列回路の時定数は、コイルのインダクタンス LL [H] を抵抗値 RR [Ω] で割ることで求められ、τ=L/R\tau = L/R [s] となります。時定数が大きいほど、電流や電圧の変化は緩やかになります。

スイッチ投入後のRL直列回路における各量の時間変化は、自然対数の底 ee (約2.718) を用いた指数関数で表されます。

  1. 回路を流れる電流 i(t)i(t): スイッチを閉じた直後 (t=0)(t=0) は 00 [A] で、最終的に E/RE/R [A] に収束します。その変化は次の式で表されます。 i(t)=ER(1−e−tτ)i(t) = \frac{E}{R} (1 - e^{-\frac{t}{\tau}})

  2. 抵抗の端子間電圧 vR(t)v_R(t): オームの法則 vR=iRv_R = iR より、電流 i(t)i(t) の変化と同じ形になります。 vR(t)=E(1−e−tτ)v_R(t) = E (1 - e^{-\frac{t}{\tau}}) スイッチを閉じた直後 (t=0)(t=0) は 00 [V] で、最終的に EE [V] に収束します。

  3. コイルの端子間電圧 vL(t)v_L(t): キルヒホッフの電圧則により、電源電圧 EE は抵抗とコイルの端子間電圧の和 E=vR(t)+vL(t)E = v_R(t) + v_L(t) に等しいため、コイルの電圧は vL(t)=E−vR(t)v_L(t) = E - v_R(t) で求められます。 vL(t)=Ee−tτv_L(t) = E e^{-\frac{t}{\tau}} スイッチを閉じた直後 (t=0)(t=0) は EE [V] で、最終的に 00 [V] に収束します。これは、コイルが電流の変化を妨げようとする性質から、スイッチ投入直後には回路の全電圧を受け持ち、電流が一定になるにつれて電圧分担を終えることを示しています。

これらの指数関数の性質として、時定数 τ\tau だけ時間が経過したとき (t=τ)(t=\tau)、

  • e−ττ=e−1=1/e≈1/2.718≈0.368e^{-\frac{\tau}{\tau}} = e^{-1} = 1/e \approx 1/2.718 \approx 0.368
  • 1−e−ττ=1−e−1≈1−0.368=0.6321 - e^{-\frac{\tau}{\tau}} = 1 - e^{-1} \approx 1 - 0.368 = 0.632 という値になります。つまり、指数関数的に減少する量は初期値の約36.8%に、指数関数的に増加する量は最終値の約63.2%に達します。

設問の条件と各選択肢の判断

上記のRL直列回路の過渡現象に関する知識に基づいて、各選択肢の正誤を判断します。

  1. 回路の時定数 τ\tau は L/RL/R で定義されます。 したがって、時定数は抵抗値 RR に反比例します。

    • 選択肢(1)「この回路の時定数は, R の値[Ω]に反比例する。」は正しい記述です。
  2. コイルの端子間電圧 vL(t)v_L(t) の変化の緩やかさは時定数 τ\tau に依存します。 時定数 τ=L/R\tau = L/R なので、L の値が大きいほど τ\tau が大きくなり、vL(t)=Ee−tτv_L(t) = E e^{-\frac{t}{\tau}} の減衰は緩やかになります。

    • 選択肢(2)「コイルの端子間電圧 vL [V] は, L の値[H]が大きいほど緩やかに変化する。」は正しい記述です。
  3. 抵抗の端子間電圧 vR(t)v_R(t) は E(1−e−tτ)E (1 - e^{-\frac{t}{\tau}}) で表されます。 時刻 t=2τt = 2\tau のとき、vR(2τ)=E(1−e−2)v_R(2\tau) = E (1 - e^{-2}) となります。 e−2=(1/e)2≈(1/2.718)2≈(0.3678)2≈0.1353e^{-2} = (1/e)^2 \approx (1/2.718)^2 \approx (0.3678)^2 \approx 0.1353 よって、vR(2τ)≈E(1−0.1353)=E×0.8647≈0.865Ev_R(2\tau) \approx E (1 - 0.1353) = E \times 0.8647 \approx 0.865 E です。

    • 選択肢(3)「時刻 t=0s から回路の時定数の 2 倍だけ時間が経過すると, 抵抗の端子間電圧 vR [V] は電源電圧 E [V] の 0.865 倍に等しい。」は正しい記述です。
  4. コイルの端子間電圧 vL(t)v_L(t) は Ee−tτE e^{-\frac{t}{\tau}} で表されます。 時刻 t=τt = \tau のとき、vL(τ)=Ee−1≈E×0.368v_L(\tau) = E e^{-1} \approx E \times 0.368 となります。 これは電源電圧 E の約0.368倍に等しくなります。選択肢に記載の「0.632倍」は、電流や抵抗の電圧が最終値の63.2%に達する値であり、コイルの電圧とは異なります。

    • 選択肢(4)「時刻 t=0s から回路の時定数だけ時間が経過すると, コイルの端子間電圧 vL [V] は電源電圧 E [V] の 0.632 倍に等しい。」は誤った記述です。
  5. 電流 i(t)i(t) は ER(1−e−tτ)\frac{E}{R} (1 - e^{-\frac{t}{\tau}}) で表されます。 時刻 t=τt = \tau のとき、i(τ)=ER(1−e−1)≈ER×0.632i(\tau) = \frac{E}{R} (1 - e^{-1}) \approx \frac{E}{R} \times 0.632 となります。 これは最終電流値 E/RE/R の約0.632倍に等しくなります。

    • 選択肢(5)「時刻 t=0s から回路の時定数だけ時間が経過すると, 電流 i [A] は E/R の 0.632 倍に等しい。」は正しい記述です。

以上の判断から、選択肢(4)が誤った記述であると分かります。

スイッチを閉じてからの時間の経過とともに、コイルに流れる電流と、各素子にかかる電圧がどのように指数関数的に変化するかを重ねてみると、回路全体の過渡的な動きが見えてきます。

参考リンク

学習の記録にははてなブックマーク!

気づいたこと・覚えたことをコメントにメモしよう