平成25年度 春期 ITパスポート試験 公開問題 問90 解説 SLAの定義と合意
中間B 会計システムの導入に関する次の記述を読んで,四つの問いに答えよ。 F社の経理部では,ITサービスを行っているG社の会計システム(以下,新システムという)の導入を進めている。経理部では,新システムの稼働後は,G社へ新システムの保守と運用を委託する予定にしており,新システムが引き渡された後のサポート内容について,G社と詳細を詰めることにした。 保守,運用に関するG社の基本サービスは,次のとおりである。 〔保守,運用に関するG社の基本サービス〕 (a) 新システムについての問合せ対応は平日だけで,電子メールで受け付け,電子メールで回答を行う。 (b) 新システムで発生した障害の切分けと,発見されたバグの修正対応を行う。 (c) 新システム運用のサービス提供時間は,平日9:00〜19:00とする。 (d) 新システムで障害が発生した場合は,発生時から9時間以内に復旧を行う。 データのバックアップを日次で行い,1か月分のデータの保管を行う。ディスク障害が発生した場合は,前日までのデータの復旧を保障する。 一方,経理部は,新システムの利用及びサポートについて,G社に対して次の要望をもっている。 〔新システムの利用及びサポートに関する要望〕 (1) 新システムの使用方法の問合せを平日9:00〜18:00の間,電話と電子メールで対応してほしい。 (2) 新システムで障害が発生した場合に対応してほしい。 (3) 新システム稼働後も利便性向上のための新システムの修正を行ってほしい。 (4) 新システムの通常の利用は,平日9:00〜18:00としたい。 (5) 決算などの繁忙期は,夜間,休日なども新システムを利用できるようにして,また問合せにも対応してほしい。
- ア
- イ ✓ 正答
- ウ
- エ
解説
ITサービスを外部に委託する際、提供されるサービスの範囲や品質について、サービス提供者と利用者間でSLA(サービスレベル合意書)を締結することが非常に重要です。この問題では、ITサービス提供者であるG社の「基本サービス」と、利用者であるF社の「要望」を比較し、特にG社の基本サービスではカバーされていない、またはサービスレベルが異なるF社の要望をSLAで明確に合意すべき事項として特定します。
SLA(サービスレベル合意書)とは
SLA(Service Level Agreement:サービスレベル合意書)とは、ITサービスの提供者と利用者との間で、提供されるサービスの内容、品質、責任範囲などについて具体的に取り決めた合意書のことです。単に「システムを導入する」というだけでなく、「システムが安定して、どのような品質で利用できるのか」を明確にすることで、サービスの品質を保証し、利用者と提供者の間で認識のズレが生じることを防ぎます。
SLAに記述される主な項目には、以下のようなものがあります。
- サービス内容と範囲: どのような機能が提供されるのか、どの範囲までがサービスの対象となるのか。
- サービスレベル目標: システムの稼働率、障害発生時の復旧時間、問合せに対する応答時間など、具体的な数値目標。
- サポート体制: 問合せの受付時間、対応方法(電話、メールなど)。
- 責任範囲: サービス提供者と利用者それぞれの役割と責任の範囲。
- サービスレベル未達時の対応: 設定したサービスレベルが達成できなかった場合のペナルティや改善策。
- 報告とレビュー: サービスレベルが遵守されているかを確認するための定期的な報告や見直し。
G社の基本サービスとF社の要望の比較
G社の基本サービスとF社の要望を一つずつ比較し、SLAで別途合意すべき「ギャップ」を特定しましょう。
問合せ対応
- G社の基本サービス(a): 平日のみ、電子メールでの受付・回答。
- F社の要望(1): 平日9:00〜18:00の間、電話と電子メールで対応してほしい。
- F社の要望(5): 決算などの繁忙期は、夜間、休日なども問合せに対応してほしい。
F社は電話での対応と、基本サービス時間外(夜間・休日)の問合せ対応を求めています。特に夜間・休日の対応は、基本サービスでは提供されていません。
障害対応とシステム修正
- G社の基本サービス(b): 障害の切分けと、発見されたバグの修正対応を行う。
- F社の要望(2): 新システムで障害が発生した場合に対応してほしい。
- F社の要望(3): 新システム稼働後も利便性向上のための新システムの修正を行ってほしい。
障害対応については、F社の要望(2)はG社の基本サービス(b)に含まれるため、SLAで特別な合意は不要です(ただし、障害復旧時間の目標値などは確認が必要です)。 一方、F社の要望(3)「利便性向上のための修正」は、G社の基本サービス(b)の「バグ修正」とは性質が異なります。利便性向上のための修正は、実質的にシステムの機能追加や改修となることが多く、別途開発費用や期間が必要となる可能性があります。この点もSLAで扱いを明確にする必要があります。
システムの利用時間とサービス提供時間
- G社の基本サービス(c): 新システム運用のサービス提供時間は、平日9:00〜19:00とする。
- F社の要望(4): 新システムの通常の利用は、平日9:00〜18:00としたい。
- F社の要望(5): 決算などの繁忙期は、夜間、休日なども新システムを利用できるようにして、また問合せにも対応してほしい。
F社の通常の利用時間(4)はG社の基本サービス(c)の範囲内に収まっています。しかし、F社の要望(5)「繁忙期の夜間、休日利用」は、G社のサービス提供時間外の利用を求めています。これは基本サービスとは大きく異なるため、SLAで明確に合意する必要があります。
データバックアップと復旧
- G社の基本サービス(d): データのバックアップを日次で行い、1か月分のデータを保管する。ディスク障害が発生した場合は、前日までのデータの復旧を保障する。
- F社の要望: 特になし。
この項目に関しては、F社からの追加の要望はありません。G社の提供レベルにF社が合意できるかを確認する段階です。
SLA策定における調整と合意の重要性
上記の比較から、G社の基本サービスとF社の要望の間にはいくつかのギャップがあることがわかります。特に重要なのは、以下の点です。
- 電話による問合せ対応: G社はメールのみですが、F社は電話も希望しています。
- 利便性向上のための修正: G社はバグ修正のみですが、F社は機能改善も希望しています。
- 繁忙期の夜間・休日利用と問合せ対応: G社の基本サービスは平日日中のみですが、F社は決算期などの特別な期間に限り、サービス時間外の利用と問合せ対応を強く求めています。
これらのギャップは、SLAを策定する上でG社とF社が具体的に合意すべき事項です。特に、基本サービスで提供されていない夜間・休日の対応や、利便性向上のための機能追加は、追加費用が発生したり、サービスレベルを別途定義したりする必要があるため、SLAの重要な交渉ポイントとなります。
問題の意図は、この「G社の基本サービスにない、特別な要望」をSLAで明確にすべき項目として特定することです。F社の要望(5)は、G社の基本サービス(平日9:00〜19:00)を大きく超える夜間・休日対応を求めており、これはSLAで追加サービスとして明確に定義し、料金や条件についても合意すべき事項です。
この問題から学ぶ実務的な視点
この問題は、SLAの策定が単なる形式的な書類作成ではなく、ITサービスが実際に利用される現場のニーズと、サービス提供側の能力を具体的にすり合わせる重要なプロセスであることを示しています。
- 利用者側の視点: 利用者は、自分たちのビジネスにとって本当に必要なサービスレベルは何なのかを明確に提示する必要があります。「決算期は夜間や休日もシステムを使いたい、万が一の際にはサポートもほしい」といった、具体的な業務の特性に基づいた要望を伝えることが重要です。
- 提供者側の視点: 提供者は、利用者の要望を理解し、基本サービスで対応できる部分と、追加の費用や契約変更が必要となる部分を明確に説明する必要があります。曖昧なまま進めると、後でトラブルの原因となります。
- SLAの活用: SLAは、単なる契約書ではなく、サービス提供者と利用者間のコミュニケーションツールでもあります。定期的にSLAの内容を見直し、実際の運用状況に合わせて改善していくことで、より良いサービス提供と利用が実現できます。