令和5年度第三種電気主任技術者上期試験 機械科目 問161 解説 問16(a) 問16
問16(a) 問16 は,単相インバータで誘導性負荷に給電する基本回路を示す。負荷電流 i_d と直流電流 i_c は図示する矢印の向きを正の方向として,次の(a)及び(b)の問に答えよ。(a) 出力交流電圧の 1 周期に各パワートランジスタが 1 回オンオフする運転において,図2に示すように,パワートランジスタ S_1~S_4 のオンオフ信号波形に対応して,負荷電流 i_d の正しい波形が(ア)~(オ),直流電流 i_c の正しい波形が(カ),(キ)のいずれかに示されている。その正しい波形の組合せを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- (1) (ア)と(エ) ✓ 正答
- (2) (イ)と(エ)
- (3) (ウ)と(イ)
- (4) (エ)と(オ)
- (5) (オ)と(キ)
解説
この単相インバータ回路では、パワートランジスタのオンオフ信号と誘導性負荷の特性により、負荷電流 の波形は(ア)、直流電流 の波形は(エ)となります。これは、誘導性負荷が電流の急激な変化を妨げ、電圧の切り替わりに対して電流の位相が遅れる性質を持つため、また直流電源からの供給電流 は、エネルギーが直流側から交流側へ供給される期間のみ正の値をとるためです。
インバータの動作と誘導性負荷の特性
単相フルブリッジインバータは、直流電源 を使って交流電圧を生成する回路です。図1は、パワートランジスタ(ここではS1~S4)と、それぞれのトランジスタに逆並列に接続されたダイオードで構成されています。この回路では、対角線上のトランジスタ(S1とS4、S2とS3)を同時にオンオフすることで、負荷に流れる電流の向きを切り替え、交流電流を生成します。
本問の負荷は「誘導性負荷」であり、抵抗(R)とインダクタンス(L)の直列回路として表現されます。インダクタンスには以下のような重要な性質があります。
- 電流の急激な変化を妨げる: インダクタンスに流れる電流は、電圧の変化にすぐには追従せず、なめらかに変化します。これは「レンツの法則」によって説明され、インダクタンスは電流の変化を打ち消す方向に誘導起電力(逆起電力)を発生させるためです。結果として、負荷電流の波形は印加される電圧波形に対して位相が遅れます。
- エネルギーを蓄積する: インダクタンスは磁気エネルギーを蓄えることができ、電流が流れ続けている限り、そのエネルギーを保持しようとします。そのため、インバータのスイッチが切り替わって電圧の向きが変わっても、蓄えられたエネルギーによって電流はすぐにゼロにならず、しばらくは同じ方向に流れ続けようとします。
- 還流ダイオードの役割: トランジスタに逆並列に接続されたダイオードは「還流ダイオード」と呼ばれます。スイッチがオフになった後もインダクタンスに蓄えられたエネルギーによって電流が流れ続けようとする際、このダイオードが導通して電流の経路(還流経路)を提供します。これにより、トランジスタに過電圧がかかるのを防ぎ、回路全体の安定した動作を保証します。還流期間中は、負荷に蓄えられたエネルギーがダイオードを介して消費されるか、直流電源に戻されるかのどちらかであり、直流電源から新たにエネルギーが供給されることはありません。
負荷電流 と直流電流 の波形を判断するステップ
図2に示されたパワートランジスタS1~S4のオンオフ信号波形(S1とS4が同時にオン、S2とS3が同時にオン)と誘導性負荷の特性を考慮して、負荷電流 と直流電流 の波形を判断します。
1. 0からの期間における負荷電流 の変化
- この期間では、図2のオンオフ信号に基づきパワートランジスタS1とS4がオンになります。
- 直流電源 の正極からS1、負荷、S4を通って負極へと電流が流れる経路が形成され、負荷には図1の矢印の向きに正の電圧 が印加されます。
- 負荷は誘導性であるため、電流 は電圧印加と同時に急激に増加するのではなく、ゼロから徐々に正の方向へ立ち上がっていきます。これは波形(ア)と一致します。
2. からの期間における負荷電流 の変化
- の瞬間でS1とS4はオフになり、代わりにS2とS3がオンになります。これにより、負荷には図1の矢印とは逆向きに負の電圧 が印加されることになります。
- しかし、誘導性負荷の特性により、それまで正の方向に流れていた電流 は急に負の方向に変わることはできません。まだ正の値を維持しようとします。
- このとき、S2とS3にそれぞれ逆並列接続された還流ダイオードが導通し、負荷電流 はその還流経路を通じて徐々に減少し、やがてゼロを通過して負の方向に増加していきます。
- したがって、負荷電流 は 以降もなめらかに変化し続け、ゼロを通過して負の方向に増加していく波形となります。これらの挙動は、波形(ア)が示す通り、電圧の切り替わりに対して電流の位相が遅れ、なめらかな曲線を描いていることに一致します。
3. 直流電流 の波形決定
- 直流電流 は、直流電源 からインバータ回路に流れ込む電流を示します(図1の矢印の向きが正)。この電流は、直流電源から負荷へエネルギーが供給される期間のみ正の値をとり、それ以外の期間(特に還流期間)ではゼロとなります。
- 0から約 の期間: S1とS4がオンで、負荷電流 が正のとき、直流電源からS1、負荷、S4を通る経路で電流が流れます。この期間、直流電源からエネルギーが供給されるため、直流電流 は負荷電流 と同じ正の波形をとります。
- 直後の期間: S2とS3がオンになりますが、負荷電流 はまだ正の値です。このとき、電流はS2とS3の還流ダイオードを通じて流れ、直流電源からは電流が供給されないため、直流電流 はゼロとなります。
- が負になった期間: S2とS3がオンで、負荷電流 が負のとき(図1の の矢印とは逆向きに電流が流れるとき)、直流電源からS3、負荷、S2を通る経路で電流が流れます。この場合も直流電源からエネルギーが供給されるため、直流電流 は負荷電流 の絶対値に対応する正の波形をとります。
- 周期終わり直後の期間: S1とS4がオンになりますが、負荷電流 はまだ負の値です。このとき、電流はS1とS4の還流ダイオードを通じて流れ、直流電源からは電流が供給されないため、直流電流 はゼロとなります。
- これらの条件を総合すると、直流電流 は、負荷電流 の絶対値波形に似ていますが、還流期間にゼロとなるパルス状の波形となります。この特徴は波形(エ)と一致します。
上記の理由から、負荷電流 の正しい波形は(ア)、直流電流 の正しい波形は(エ)となります。したがって、正しい波形の組合せは(1)です。
図2のオンオフ信号波形と、それによって決まる負荷電圧の極性、さらに負荷電流 と直流電流 の波形を重ねてみると、誘導性負荷の特性と還流ダイオードの役割、そしてインバータが直流電源からエネルギーを取り込むタイミングの関係が見えてきます。