令和5年度第三種電気主任技術者上期試験 機械科目 問162 解説 問16(b) 問16
問16(b) 問16 は,単相インバータで誘導性負荷に給電する基本回路を示す。負荷電流 i_d と直流電流 i_c は図示する矢印の向きを正の方向として,次の(a)及び(b)の問に答えよ。(b) 単相インバータの特徴に関する記述として,誤っているものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
- (1) 図1は電圧形インバータであり,直流電源 E の高周波インピーダンスが低いことが要求される。
- (2) 交流出力の調整は,S_1~S_4 に与えるオンオフ信号の幅 T/2 を短くすることによって交流周波数を高くすることができる。又は,E の直流電圧を高くすることによって交流電圧を高くすることができる。
- (3) 図1に示されたパワートランジスタを,IGBT 又はパワーMOSFET に置換えてもインバータを実現できる。
- (4) ダイオードが接続されているのは負荷側のインダクタンスに蓄えられたエネルギーを直流電源に戻すためであり,さらにダイオードが導通することによって得られる逆電圧でパワートランジスタを転流させている。 ✓ 正答
- (5) インダクタンスを含む負荷としては誘導電動機も駆動できる。運転中に負荷の力率が低くなると,電流がダイオードに流れる時間が長くなる。
解説
単相インバータの図1において、選択肢(4)の記述のうち、「ダイオードが導通することによって得られる逆電圧でパワートランジスタを転流させている」という部分が、電圧形インバータにおけるパワートランジスタの転流方式として誤りであるため、これが正答となります。
電圧形インバータにおけるパワートランジスタと還流ダイオードの役割
電圧形インバータは、直流電圧源から交流電圧を生成する装置であり、図1のようにIGBTやパワーMOSFETなどの自己消弧能力を持つパワートランジスタ(スイッチング素子)と、それに並列に接続されたダイオード(還流ダイオードまたはフリーホイールダイオード)で構成されるHブリッジ回路が一般的です。この回路におけるそれぞれの素子の役割を理解することが、選択肢(4)の誤りを判断する上で重要となります。
還流ダイオードの本来の役割
図1の単相インバータ回路では、誘導性負荷が接続されています。誘導性負荷は、電流が変化する際に、その変化を妨げる方向に逆起電力を生じ、エネルギーを磁気エネルギーとして蓄えたり放出したりする性質があります。 パワートランジスタがオンからオフに切り替わると、誘導性負荷に流れていた電流は急に途絶えようとしますが、誘導性負荷の性質上、電流はすぐにはゼロになりません。このとき、誘導性負荷は蓄えていたエネルギーを放出しようとして高電圧を発生させます。 この急激な電圧上昇や電流の遮断による素子への過電圧・過電流を防ぎ、負荷電流を継続して流す経路を提供するのが還流ダイオードです。還流ダイオードは、負荷電流の向きが変わる過渡期などに、負荷電流が直流電源側に還流(回生)する経路を形成します。これにより、インダクタンスに蓄えられたエネルギーが直流電源に戻され、スイッチング素子や回路全体が保護されます。この回生作用は、特に誘導電動機などの誘導性負荷を駆動する際に重要となります。
パワートランジスタの転流方式
インバータにおいて、スイッチング素子がオフ状態に遷移することを「転流」と呼びます。単相電圧形インバータで用いられるIGBTやパワーMOSFETといったパワートランジスタは、ゲート信号(ベース信号)によって能動的にオン・オフを制御できる「自励式転流」素子です。これは、ゲートに信号を与えればターンオンし、ゲート信号を取り除けばターンオフするという、外部からの制御信号によって自身の導通状態を切り替える能力を指します。 これに対し、サイリスタなどの他励式転流素子は、一度ターンオンすると、アノード電流をある値以下に下げるか、アノード・カソード間に逆電圧を加えるなど、外部回路の動作によって電流を遮断しなければターンオフできません。
選択肢(4)の判断
それでは、解説したインバータの動作原理に基づいて、選択肢(4)の記述を評価します。
還流ダイオードの機能の確認 選択肢(4)の「ダイオードが接続されているのは負荷側のインダクタンスに蓄えられたエネルギーを直流電源に戻すためであり」という部分は、前述の通り還流ダイオードの重要な役割の一つであり、正しい記述です。誘導性負荷を持つインバータでは、負荷に蓄えられたエネルギーを直流電源に回生することで、回路の安定動作と効率の向上が図られます。
パワートランジスタの転流方法の確認 選択肢(4)の後半「さらにダイオードが導通することによって得られる逆電圧でパワートランジスタを転流させている」という記述は、図1で用いられるIGBTやパワーMOSFETのようなパワートランジスタの転流方式としては誤りです。これらの素子はゲート信号によって自らオン・オフを制御できる「自励式転流」素子であり、ダイオードの導通による逆電圧で転流されるわけではありません。逆電圧による転流は、サイリスタなどの「他励式転流」素子で見られる現象です。パワートランジスタの転流は、制御回路からゲート(またはベース)に与えられる信号の有無によって行われます。還流ダイオードはあくまで負荷電流の経路を確保し、エネルギーを回生する役割を担います。
選択肢(4)の記述の評価 上記より、選択肢(4)の記述は前半が正しいものの、後半の「ダイオードが導通することによって得られる逆電圧でパワートランジスタを転流させている」という部分が誤っています。したがって、この選択肢が問題文の求める「誤っているもの」に該当します。
その他の選択肢の確認
他の選択肢は、電圧形インバータの特徴として適切な記述です。
選択肢(1)について 図1は直流電源の電圧を交流に変換する「電圧形インバータ」であり、直流電源の電圧変動が交流出力に影響するため、直流電源Eの高周波インピーダンスが低いことが、出力電圧を安定させるために要求されます。これは正しい記述です。
選択肢(2)について 交流出力の調整は、パワートランジスタS1~S4に与えるオンオフ信号の幅(PWM制御など)や周波数を変更することで、交流周波数や交流電圧を調整できます。また、直流電源Eの直流電圧自体を高くすることでも、出力交流電圧を高くすることができます。これも正しい記述です。
選択肢(3)について 図1に示されたパワートランジスタは、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やパワーMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)に置換えることができます。これらはどちらも自己消弧能力を持つスイッチング素子であり、電圧形インバータの主たるスイッチとして広く用いられています。これは正しい記述です。
選択肢(5)について インダクタンスを含む負荷としては、誘導電動機が代表的です。誘導電動機は誘導性負荷であり、運転中に負荷の力率が低くなると、電流の位相が電圧よりも遅れる時間が長くなります。この遅れ時間中は、還流ダイオードが導通して誘導性エネルギーを回生する時間が長くなるため、電流がダイオードに流れる時間も長くなります。これも正しい記述です。
この問題では、電圧形インバータにおけるパワートランジスタの転流方式と、還流ダイオードの役割を正確に理解しているかが問われています。
図1のインバータ回路におけるS1~S4のパワートランジスタと並列に接続されたダイオードの役割、そしてインバータの出力電圧波形や負荷電流波形を重ねてみると、各素子がどのタイミングで導通し、エネルギーがどのようにやり取りされるのかが見えてきます。